白夜行について。その1


今回は「白夜行」について書きます。
なんというか、毎度全く脈絡無いですが(笑)。



白夜行」は推理作家の東野圭吾さんの作品で、1999年に刊行されました。第122回直木賞の候補にもなっております。その後、舞台化、また今年一月にはドラマ化もされ、出版部数も累計120万部を超え、東野さんの作品では一、二を争う知名度の有る作品になっています。


というか、作品の前にまず作者の東野圭吾さんの話をする方が自然だとは思うのですが(笑)、
自分にとってそれ程、愛着の有る作品…という事かもしれません。


まず東野圭吾さんのプロフィールについて簡単に触れると1958年生まれ、1981年日本電装株式会社(現・デンソー)に入社し、在職中の85年「放課後」で第31回江戸川乱歩賞を受賞し作家としてデビュー、
翌年退社し、その後専業作家として活動し、99年に「秘密」で第52回日本推理作家協会賞を受賞(後に映画化)、そして2005年8月に発表された「容疑者Xの献身」が『このミステリーがすごい!2006年版』、『本格ミステリ・ベスト10 (2005)』、『週刊文春 傑作ミステリーベスト10』の3冠をさらっただけでなく、今年6度目の候補にして、遂に第134回直木賞を受賞し、ある意味今ノリにノっているとも言えそうな(って、表現が古い(爆))作家さんと言えるかもしれません。


さて、そんな東野さんの代表作の一つとも形容される白夜行とはどんな作品なのでしょうか。
今回は原作の小説と、今年放映されたドラマの内容を少し絡めつつ書いてみようと思います。


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以下、作品のネタバレがかなり含まれておりますが(もちろん出来るだけ避けるつもりですが…)、推理系の話でオチが分かってしまう程つまらない事は無い(特にこの作品の場合)と思うので、未読の方は注意というか、可能であれば、というか何としてでも(爆)^◇^;←おい
ぜひ読んでから、見てもらえれば嬉しいかもしれません…。
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この作品は二人の男女が主人公です。この作品では彼等の11歳からの約19年間という長い時間をその時代時代を追って描いていきます。舞台は1973年から92年の間の大阪と東京(ドラマ版では1991年から2006年の間とアレンジしてます)。
作品中、彼等の心情が語られることはほとんど有りません。また、その歩んできた人生さえも全てが語られるわけでは有りません。
物語は全てその時々に彼等の周りにいた人物達の視線からのみ語られます。彼等の友人、先輩、親、夫、恋人、追っている刑事…。二人は人生のごく早い時期から、詐欺、売春、窃盗、強姦、そして殺人とあらゆる種類の犯罪を繰り返していきます。
そして物語の最後で、何故彼等がそういう生き方を選ぶようになったのかが明かされる…という筋になっています。


小説白夜行は、ノワールや恋愛等様々な要素を含んでいる文芸作品だとも言えますが、僕はあくまで基本はミステリーだと思っています。
発売当初、白夜行の帯に「ミステリーの枠を超えた」と書かれていたのを、東野さんの要望で「ミステリーの枠を広げた」に変更されたという事が有ったそうですが、当時の東野さんが(今もそうかな…?f^^;)それだけミステリーというものに拘っていた事を裏付けるエピソードだと思います。


ちなみにドラマではその最後のオチから話を始めるという、(一応)推理小説の原作から入った人間からするととんでもないとさえ思える(笑)初回スタートとなっておりました。しかし、製作者側にはそうする上できちんとした理由が有ったわけで、ドラマを見終わってみると成程…、と納得出来る作りになっていました。
ドラマは小説とは全く逆の視点で、つまり、主人公二人の心象を描くことを主体として物語を描いています。
その為にまずそのきっかけとなる出来事をきちんと描く必要が有った…、という事のようです。
(ただ、そのネタバレが問題になってTBSのドラマのホームページでネタバレを止めろ! という抗議が殺到して、BBSが荒れに荒れたという笑えないような話も有りますが…。ーー;)



冒頭で述べましたが、この作品では彼等のやってきた事はうっすらとしか語られていません。
最後に明かされる彼等が犯罪者になったきっかけとなる出来事もさえも、
実はきっとそうだったであろう…という一登場人物の推測でしかなかったりします。
それ故に色々な想像が出来るのがこの本の楽しいところかもしれません。ドラマのプロデューサーさんはドラマの公式HPの日記の中で、
「その「何十万分の二」の(敢えて約分しませんが)
僕と森下さんの解釈を今回ドラマとしてやるつもりで
今回台本を作っています。」
と書いています。つまりドラマはあくまで脚本家とプロデューサーさんの何十万分(当時の出版部数は約55万部でした)の二の一解釈(とアレンジ)として見ることが出来るでしょう。


原作ファンとして、ドラマを見終わった後の感想を一言で言えば、とても面白かったです(細かい不満は有りましたが…^^;)。原作が有ってこそのドラマというか、お互いが内容を補完しあっていて「白夜行」という作品に更に深みが出たように感じられました。
それが原作が好きな人間としてはとても嬉しかったわけです。



さて、小説版の話に戻りますが、僕がこの作品を読んだのは大学4年位の頃で、丁度東野さんの作品を読み始めて間もない時でした。
少しずつ東野さんに興味を持ち始めて、幾つかの作品を読んでから東野作品でかなり評価の高いという「白夜行」を図書館で読み始めました。厚い本だったので、かな〜り長い期間をかけて読んでいった憶えが有ります。(その時は本を購入する余裕が無かったので図書館やら立ち読みやらで(爆)←おい^^; 本当に少しずつ読み進めていきました)


当時、僕はこの作品について具体的な知識はほとんど何も持たずに読み進めていきましたが、(ものすごく暗いだとか、虚無感を感じる…だとか、そういう曖昧な感想は聞いておりましたが(笑))
最後まで読み終わった時に感じた衝撃というのは、何というか今でも忘れられないものが有りました。^^;
一体何にそこまで衝撃を受けたのか…というのを今考えてみると、僕は主人公に共感を覚えてしまったのですね。それもちょっとやそっとの共感とか、ましてや同情でもなく、深い意味で共感出来てしまったんです。
(強姦だの、殺人だの身の毛もよだつような犯罪を繰り返してきた主人公達に…です)
…と同時に、僕は東野さんがそれを狙って書いているような気がして、本当にゾッとしてしまったのでした。


この作品では、二人が幼少の時に起きたある事件が物語のキーポイントになっています。
僕は幼少の頃の出来事や、環境によって、人がある程度形作られるのは止むをえない事だと思っています。
ある意味当然の事ともいえます。しかしそれを原因として、犯罪を犯す事が許されるのかどうか…。
それがこの作品の裏テーマなのではないかなぁ、と僕は勝手に思ったのでした。(それはもちろん、読んだ当時にそこまで思えたわけではなくてドラマを併せて見て思った事なのですが…)



ドラマの公式BBS等でよく見かけた意見の中の一つに、
彼等は元々被害者でしかなくて、犯罪を犯し、ずっと逃げてきた事も、
元はといえば彼等の周りの大人達がやってきた事に責任が有るのであって、彼等に罪は無いはずだというものが有りました。
(特にドラマは主人公二人に、同情、共感を集めるような描き方をしていた、…という事も有ったからだと思いますが)
しかし僕はずっとそれは違うのではないかなぁ〜…、と思っていました。
僕は彼等には引き返すチャンスは幾らでも有ったと思うのです。最初に起こした犯罪は確かに不可抗力であったかもしれません。でも彼等は大人になるにつれ、色々な人に会い世間を知っていった(もしくは、知る機会が有った)筈なんですね。その時点でこれまでしてきた事を償い、生き方を変えていこうと思う事も出来た訳で、そしたら、もう一度人生をやり直す事も出来たかもしれないなぁ…、と思うのです。


要するに彼等は犯罪者であり続ける事を自覚的に選び続けたのだ、というのが僕の結論でした。
それが幼少の頃の秘密を守る為だとか、お互いの為を想って…だとか、
(残念ながら凄い悲しい純粋さだよなぁ…としか形容出来ないのですが)
そういう気持ちが有ってそうしたとしても…です。
…まぁ、ここら辺はホントにドラマだといい話なんですけどね〜…(笑)。^^; 実際に僕も一度や二度はドラマ見ながら泣きそうになってしまいましたが(爆)。^◇^; そういう意味では、白夜行がドラマHPにあるように、「純愛」なんていう肩書きや、捉え方をされるのもあながち間違ってはないのかもしれません。


東野さんが白夜行についてコメントした文章に、以下のようなものが有ります。
「…これは子どもの頃にこういう事がありましたと書いた後に、ポンッと大人になった"現在"を描いているわけではないということが、自分としては意味があります。彼らはあるひとつの出来事によって、全てが狂ったというよりは、少しずつそういう方向に行くんだということなんですよ。
それが『白夜』の道なんだ、というふうに自分では思いますね。だからこれに関して"トラウマ"のような言葉は僕は一切使っていません。だから、そういうふうに決め付けられるのは本当は極めて心外なんですよ。
これはこれで、一つの信念にもとづいた生き方なのだ、という書き方をしているつもりです」
つまり二人は彼等独自の信念に基づき、自らの意思で犯罪者になっていったのだという事なのでしょう。
だから僕は周りの大人だけでなく、彼等にも確かに罪が有るし、罰を受けるべきなんだと思いました。
そういう意味で彼等が迎えた結末が妥当なのかどうかは、見る人によって意見が分かれるところなのでしょうが…。


こんな事を書いてどうにかなるものでもないのですが(汗)、^^;
例えば、同じ環境にある人が仮に居たとしても、僕はその人にそういう生き方は絶対に選んで欲しくないし、もし僕が同じ環境で育ったとしても、同じ生き方は選ばないようでありたい…ですね。
…まぁ、そんな事たらればで語ってもしょうがないし、そもそもフィクションでそこまで熱くなられても…(爆死)、^◇^; という方もたくさん居るでしょうが、まぁ、それくらい深いテーマを持った話なんだろうなという事が書きたかったと(笑)。
大げさに言えば、読む側の倫理観みたいなものが問われる作品なのかもしれません…(これは本当〜に大げさですが…^^;)。



この作品が無ければ、恐らく僕はそれほど東野さんに惹きつけられる事は無く、ただ巧い作家さんだなぁ…、としか思ってなかったかもしれませんが、そんなこんなで、今ではかなりお気に入りの作家さんになってしまいました。
そしてそんな風に一つの作品をじっくり考える機会になったドラマにも(色々細かい不満は有れど 笑)、感謝しているわけです。


さてもう一週間位したらドラマのDVDボックスなんていうものが発売される事になっているのですが(笑)、
(気になる方はこちらにどうぞ→http://www.amazon.co.jp/gp/product/B000E5MTQE/250-5252589-6993835?v=glance&n=561958
 未読の方はストーリーのところは読まないように注意です)
テレビ放送で放映されなかった映像も追加されているらしいし、特典映像やらなにやら有るらしいし、まぁ楽しみにしているんですが…。
それを待つにあたり結局どういう話だったんだろうなっていうのを改めて考えてみたくなって、こんな風にダラダラ書いてみた次第であります。(まぁ、またDVD見たら感想変わるかもしれませんが…(笑))


そんなところで、では…。



※この記事を書くのに、以下の本とHPを参考にさせて頂きました。
 「野生時代2006年2月号 特集・東野圭吾のすべて」
 http://from1985.pekori.to/keigotaku/
 (東野さんファンサイト/御託をもうひとつだけ)
 http://www.tbs.co.jp/byakuyakou/pdiary/no_001.html
 (TBS石丸彰彦プロデューサー日記)


白夜行

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白夜行 完全版 DVD-BOX

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